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皐月晴れの空を疾走するかなしみ 2013年5月 発売

Profile : the Letters

皆様、お元気にお過ごしでいらっしゃいますか?

九州・佐賀県の鳥栖で開かれております”ラ・フォル・ジュネ”に出演しています。鳥栖は鉄道と道路が交わる交通の要地で内陸工業都市として発展した町。3年目となる今年のテーマはモーツァルトで、1番、35番 ≪ハフナー≫、40番、41番 ≪ジュピター≫ の4交響曲やフルートとハープのための協奏曲等を演奏致します。8歳の時に作曲された第1番の第2楽章でホルンの吹くモティーフが、亡くなる3年前の32歳で書かれた最後の交響曲(41番)最終楽章の主題になっている事実は、何度演奏しても、この尋常でない才能に触れて込み上げる幸福感と同時に、身の毛がよだつような、ぞっとした感覚に襲われて、何とも不思議な気持ちになります。今回も2曲を続けて、モーツァルトという類い稀な存在を実感して戴きたいと思いました。

この機会に、中学時代から親しんでいる小林秀雄著の<モーツァルト>を再び読み直しました。小林氏に関しては、何があったのかは知りませんが、余り肯定的に思っていなかったらしい父から聞かされた多分に主観が混入している逸話や、鎌倉駅のプラットフォームで時々見掛けた氏の横顔がちらついて、すんなり読めず、いつも困ります。終戦後間もない昭和21年に発表された彼のモーツァルト論は、賛成しかねる点も多いのですが、読み返す度に感嘆してしまうのは、フランスの劇作家アンリ・ゲオンがモーツァルトの旋律を tristesse allante と呼んでいる事を紹介している件です。引用すると、「確かに、モーツァルトのかなしさは疾走する。」ここまでは、フランス語の訳ですから誰でも書けます。しかし、続く8文字は、小林氏以外の誰が書けるでしょうか?曰く、「涙は追いつけない。」

雑感が長くなりました。6月のコンサートのお知らせを同封いたしますので、よろしくお願い申し上げます。

鳥栖にて、2013年5月

矢崎 彦太郎

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